AI・機械学習を中心に

AI/機械学習/データ分析/子育て/日々の雑感

[翻訳]決定インテリジェンスの概要~AI時代のリーダーシップのための新しい学問分野~

原文

Cassie Kozyrkov氏の記事より(2019年8月3日)

towardsdatascience.com

 

イントロ

サバンナでライオンを回避するための心理学が、責任あるAIリーダーシップやデータウェアハウスの設計の課題と共通しているということをご存じですか。ようこそ決定インテリジェンス(decision intelligence)へ。

決定インテリジェンスはオプション間の選択の全ての側面に関係する新しい学問分野です。それは、応用データサイエンス、社会科学、経営科学を統合した分野にまとめ、人々がデータを使って生活、ビジネス、そして周囲の世界をよりよいものにすることを支援します。それはAI時代における不可欠な科学であり、AIプロジェクトを責任をもって主導し、目的、メトリック、大規模自動化するためのセーフティネットなどを設計するために必要なスキルを網羅しています。

決定インテリジェンス(decision intelligence)は情報をあらゆる規模においてよりよい行動に変換するための学問分野です。

その基本的な用語の定義と概念を見てみましょう。各セクションはskim-reading(文章の全体像をつかむためにざっと読むこと)に適した形で構成されています。

決定(decision)とは何か

データは美しい。しかしそこからの意思決定が重要です。私たちの意思決定―つまり行動―によって、私たちは世界に影響を与えます。私たちは「決定(decision)」という言葉を「任意のエンティティにおけるオプション間の選択」という風に定義しており、(例えばビジネスにおいてロンドンに支社を開くかどうかといった)MBAで扱うような二者択一よりも広い話となります。

この用語の定義において、ユーザーの写真に猫か否かのラベルを付与することがコンピュータシステムにおける決定であり、一方でそのシステムをローンチするか否かを判断することがプロジェクト責任者であるリーダーの人間が下す決定です。

意思決定者(decision-maker)とは何か

私たちの用語の定義においては、「意思決定者(decision-maker)」とはプロジェクトチームの計画を拒否/不承認するような利害関係者や投資家のことを指すのではなく、むしろ意思決定アーキテクチャやコンテクストフレーミングの責任者のことを指します。別の言い方をすれば、「細心の注意を払って表現されたプロジェクトの目的を考える人」のことであり、それを壊そうとする人ではありません。

意思決定(decision-making)とは何か

「意思決定(decision-making)」とは各分野において異なった使われ方をしています。そのため、それは以下のようなことを指します。

  • 複数のオプションがある中で一つの行動をとること(この意味においては、コンピュータでもトカゲでも意思決定(decision-making)をすることはできます)
  • (人間の)意思決定者の機能を発動すること、その一部としては判断(decision)に責任を持つということ。つまり、コンピュータシステムも判断を下すことはできますが、それは意思決定者とは呼ばれません。なぜならその出力に対し責任を負っていないからです。その責任はそれを生み出した人の肩に乗っています。

「計算結果の出力」と「意思決定」の違い

全ての出力/提案は決定(decision)ではありません。Decision analysis(決定分析)の定義によると、決定は取り返しのつかないリソースの割り当てが行われた場合のみ成されます。何のコストもなくあなたが心変わりができる限り、何の決定も成されてはいません。

決定インテリジェンスの分類

決定インテリジェンスについて学習するための一つの方法は従来の方針に沿って、それを定量的側面(応用データサイエンスと大部分が重複しています)と定性的側面(主に社会科学と経営科学の研究者によって発展させられています)に分解することです。

定性的側面:決定科学(decision science)

定性的側面に対する学問分野は伝統的に決定科学(decision science)と呼ばれてきました。決定科学は次のような質問と関係しています。

  • どのように決定基準を設定し、メトリックを設計すべきか(全て)
  • あなたが選択したメトリックはincentive-compatible(インセンティブ互換)か(経済学)
  • この決定を下すにはどれだけの情報の品質が必要であり、完璧な情報を得るためにはどれだけのコストが必要か(決定分析)
  • 感情、ヒューリスティクス、バイアスは意思決定にどれだけ影響するか(心理学)
  • コルチゾールレベルのような生物学的要因は意思決定にどのように影響するか(神経経済学)
  • 情報の提示方法を変更すると、選択行動にどのように影響するか(行動経済学
  • グループで意思決定を行うとき、どのように得られる成果を最適化するか(実験ゲーム理論
  • 意思決定のコンテキストを設計するとき、たくさんの制約と多段階の目的のバランスをどのようにとるか(デザイン)
  • 決定の結果を誰が経験し、各グループがその経験をどのように認知するか(UXリサーチ)
  • 決定の目的は倫理的にどうか(哲学)

これはほんのごく一部です。関係する分野のリストも全く網羅しているとは言えません。決定科学(decision science)サイドは、データと呼ばれる(紙や電子といった)半永久的な記録媒体にきちんと記録されているものというより、人間の脳というあいまいな記録媒体における決定に向けた準備と情報処理を扱うと考えてください。

あなたの脳の問題

前世紀には、無邪気な人間の努力のたまものに膨大な数式を詰め込んだものが賞賛される風潮がありました。通常、定量的なアプローチをとることは無思慮なカオスよりも優れていますが、しかしさらに優れた方法があります。

意思決定や人間行動の定性的理解の無い純粋な数学的合理性のみに基づく戦略は非常にナイーブ(単純でだまされやすい、考えが甘い)であり、定量的と定性的を組み合わせた方法に基づく戦略と比べてパフォーマンスが劣化する傾向があります。

人間はoptimizer(最適解を求めるもの)ではありません。私たちはsatisficer(最低限満足のいく解を求めるもの)です。(このことは私たちの種の傲慢さに衝撃を与えるコンセプトだと考えます。これはノーベル賞にも値するでしょう。)

実際、私たち人間は時間と労力を節約するため認知的なヒューリスティクスを使用しています。それはしばしば良いことです。サバンナのライオンから逃げるための最適なルートを考え出すと、計算を開始する前に私たちは食べられてしまいます。私たちの脳は途方もなくエネルギーを消費するデバイスであり、重量がわずか約3ポンドであるにもかかわらず体全体のエネルギー消費の5分の1も消費しています。そのためSatisficing(不満なく事足りていること)は生きるコストを節約できます。

 私たちのほとんどはライオンから逃げる日々を送っていないので、私たちは手を抜いた結果ゴミのような結果につながることがあります。私たちの脳は現代の環境に合わせて最適化されているわけではないのです。私たち人間が情報を行動に変換する方法について理解することで、意思決定プロセスを使って自分の脳の欠点から身を守ることができます。そうすることで、あなたのパフォーマンスを増強し、あなたの環境を脳に適用するのを助けるツールを構築するのにも役立ちます(ダーウィンの進化論にあなたの脳が間に合わないならば)。

ちなみにAIが人間を数式から解放すると考えるならば、考え直してください!すべてのテクノロジーはそれを生んだ人の反映であり、大規模に動作するシステムは人の欠点を増強することができます。それが、責任あるAIリーダーシップのために決定インテリジェンスが必要である一つの理由です。より詳しく知りたい場合はコチラ

おそらくあなたは意思決定をしていない

時に、あなたの意思決定の基準について注意深く考えてみることで、あなたの心を変えるような事実(fact)は世界に存在しないと気づくことがあります。あなたはすでに行動を選択しており、あなたはより快く感じる方法を探しているに過ぎないということです。それは便利な現実です。つまりそれはあなたが時間を無駄にするのを防ぎ、あなたがいずれにしろやろうとしていたことをやっている間、感情的な不快感を別に向けることを助けます。データなんてへったくれです。

「彼は統計を、まるで酔っ払いが街灯を照明ではなく支えのように使うかのように、利用します」- Andrew Lang(イギリスの詩人、小説家)

あなたが、未知のさまざまな事実に対応して、さまざまな行動をとるわけでない限り、そこに決定はありません。決定分析のトレーニングはこのような状況をよりはっきりと把握するのに役立つことはありますが。

完全な情報の下での意思決定

あなたは事実に敏感に反応する決定問題を注意深く定義でき、指をパチンと鳴らすだけで意思決定を実行するために必要な事実情報(fact)を確認できるような状況を想像してみてください。何のためにデータサイエンスが必要ですか?いえ、何にも必要はないでしょう。

事実(fact)―確信をもってあなたが知っていること―に勝るものはありません。ですから、私たちはもし事実(fact)を知っているならばそれに基づいて意思決定をすることを好みます。そのため、ビジネスの最初の段階は、事実(fact)に対しどのように対処したいかを理解することです。次の用途のうち、理想的な情報(fact)を提供したいものはどれですか?

あなたは事実(fact)で何ができますか?

  • あなたはその事実を用いることで、事前に構成された1つの重要な意思決定を下すことができる。それが十分に重要である場合には、質的側面に大きく頼って決定問題を賢く構成する必要があります。もしあなたが予期しない驚くべき情報を不意に受けてしまうと、あなたが望まない方向にあなたを操作してしまう可能性があることが、心理学者の間で知られている。そのため、心理学者はあなたが受容する情報を事前に選択するアプローチについて多く語ることがある。
  • あなたはその事実を用いることで、事前に構成された特殊な種類の意思決定を下すことができる。その意思決定とはimpact (またはcausal)decisionというものである。もしあなたの決定問題が何かを引き起こすために行動を起こすという観点で構成されている場合、意思決定を下すための因果関係についての事実が必要である。このような場合には、結果に関する事実(例えば、人々はこの病気から回復するといった情報)は、もし原因(例えば、抗生物質により)と一緒に得られなければ不要である。原因と結果の情報を入手する方法は対照実験を行うことです。一方、もしあなたが因果関係のない事実への応答としての”実行”に関する意思決定を行おうとしている場合(例えば、もし銀行口座に〇以上の金額がたまったら、私は新しい靴を買おう、など)、実験は必要ない。
  • あなたはその事実を用いて、自身の意見を裏付けることができる(「おそらく外は晴れているだろうと思います」が「外は晴れているということを知っています」になる)
  • あなたは事実を用いて、一つの重要な存在ベースの意思決定を下すことができる。存在ベースの意思決定とは過去に未知であった事象の存在により、あなたのアプローチの根底が大きく揺さぶられ、後から考えて、あなたの決定のコンテキストはずさんに構成されていたということに気づき下されるものである。(「すぐ隣にエボラ出血熱の症例があることが分かったので、私はここから出ていきます」)
  • あなたはその事実を用いて、多数の決定を自動化できる。従来のプログラミングでは、人間が事実から適切なアクションに変換する命令を指定する。ルックアップテーブルのようなものはこれに当たる。
  • あなたはその事実を用いて、自動化ソリューションを明らかにすることができる。システムに関する事実を知ることで、それらに基づきコードを書くことができる。これは情報なしでひたすら考えてソリューションの構造を考え出す従来のアプローチよりも良いものである。例えば、もしあなたがセ氏温度をカ氏温度に変換する方法を知らず、ただセ氏とカ氏の対応データだけ利用できる場合、おそらくあなたはそれらの関係式を分析により導き出すことができるだろう。そしてその関係式(”モデル”)をコード化するだけで、あなたの泥臭い仕事を代わりにやってくれて、あなたは不格好なテーブルを捨て去ることができる。
  • あなたはその事実を用いて、完全な解が求められる自動化問題の最適な解決策を生成することができる。これが古典的な最適化問題である。オペレーションズリサーチの分野では、例えば一連のタスクを完了させる最良の順序など、理想的な結果を得るためにどのように制約条件を調整するかなど、多くの事例がある。
  • あなたはその事実を用いて、未来の重要な決定事項に対しどのようにアプローチするか示唆を生むことができる。これはアナリティクスといい、部分的な情報のセクションにも含まれている。
  • あなたはその事実を使用して、あなたが扱っている内容を見積もる、吟味することができる。これにより将来の決定のために利用できるインプット情報の種類を理解し、情報をよりよく収集する方法をデザインすることができる。もしあなたが未知の材料(データ)でいっぱいの暗くて大きい倉庫(データウェアハウス)を引き継いだばかりの場合、誰かがその中を見るまであなたはその中に何があるかわからないでしょう。幸運にもアナリストがその中をスピーディーに確認できる。
  • あなたはその事実を使用して、ぼやっとした決定事項を作ることができます。これは意思決定の重要度が低く、慎重にアプローチするほどでもない場合に有効である。例えば、「今日何食べる?」など。全ての決定事項に対し常に厳密であろうとすると、あまり最適ではない解が長い時間をかけて得られてしまい、いわゆる「完璧主義」に陥ってしまう。重要な決定を下す場面に備えて労力を節約しましょう。しかし、低品質-小労力のアプローチが効率的であっても、そのアプローチが低品質であるということを忘れないでください。そのアプローチから得た結果に自信過剰にならないようにしてください。

決定科学(decision science)のトレーニングにより、厳密でファクトベースの決定事項に対する労力を削減する方法を学びます。つまり同じ作業量で、全体的により高い品質の意思決定が得られるようになります。これはとても価値のあるスキルです。しかし、それを磨くにはとても多くの時間が必要です。例えば、行動経済学の学生は情報を得る前に前もって決定基準を設定する習慣が形成されます。このように決定科学のトレーニングを受けた人は、チケットの値段を見る前に、チケットに支払える最大額を自問せずにはいられなくなります。

データ収集とデータエンジニアリング

もし事実がそこにあるであれば、それはもう終わりでしょう。悲しいかな、私たちは現実世界に生きていて、しばしば自分の情報のために作業しなければなりません。データエンジニアリングはデータを大規模に、確実に利用できるようにすることに向けた洗練された分野です。1パイントのアイスをスーパーに買いに行く時のように、利用可能な全ての関係する情報が一つのスプレッドシートに収まるならば、データエンジニアリングは簡単になります。

しかし、200万トンのアイスクリームを溶かさずに配送するとなったら、、事は急にややこしくなります。巨大な倉庫を設計し、立ち上げ、保守する必要があり、将来どのようなものを保管する必要が出てくるのかわからない場合はなおさらです。それは魚かもしれません、またはプルトニウムかも、、、頑張って!

データエンジニアリングは決定インテリジェンスとは別の姉妹分野でありカギとなるコラボレーターですが、決定科学には事実情報のデザインと収集に対する助言の専門知識が多分に含まれています。

定量的側面:データサイエンス

もしあなたが決定問題を定義し、必要な事実を検索エンジンやアナリストを通じて見つけたら、あとは決定を下すだけです。それでおしまい!あいまいなデータサイエンスは必要ありません。もしその全ての”フットワーク”とエンジニアリング”柔術”をもってしてもあなたの決定問題に対して理想的な情報が得られなかったら?もし、部分的な情報しか得られなかったら?おそらくあなたは明日の事実が欲しいのでしょう。しかしあなたはあなたは過去の情報しか得ることができません。おそらくあなたはあなたの携わる製品の潜在顧客が何を考えているのか知りたいのでしょう。しかしあなたはそのうちの数百人にしか質問することはできません。この時あなたは不確実性について扱わなくてはならなくなります。あなたが知っていることは、あなたが知りたかったことではありません。データサイエンスにようこそ!

当然、あなたが持っている事実があなたが欲しい事実と異なる場合、あなたはアプローチを変えるべきです。おそらくそれはもっと大きなパズルの1ピースでしょう(大きな母数からのサンプリングのように)。おそらくすれは正しいパズルではないでしょう、しかしあなたが持っている最善のものです(過去からの未来の予測のように)。あなたがデータの範囲を飛び越えなくてはならない時、データサイエンスは面白くなります。しかし、イカロスのような断定は避けるように注意してください。

  • あなたは部分的な事実を用いて、統計的推論を用いた仮説であなたが持っている情報を補完することで、事前に定義された決定を下すことができます。これが頻度主義(古典的)統計です。もしあなたがinpact decision(何かの出来事を引き起こすために行動をするという観点で定義された決定問題。例えば、もしより多くの人がウェブサイトを訪れるようになるのならば、ロゴの色をオレンジに変更する、など)に取り組んでいる場合、ランダム化対照実験から得られたデータを使うのがよいでしょう。もしあなたがexecution decision(例えば、ユーザーの少なくとも25%がオレンジをお気に入りの色だと考えているのならば、ロゴの色をオレンジに変更する、など)に取り組んでいる場合、調査または観察研究で十分です。
  • あなたは部分的な事実を用いて、あなたの考えをより情報に基づいた(それでも依然として不十分で個人的な情報ではある)考えに論理的に変換することができます。これがベイズ統計です。もしあなたの下したい決定に原因と結果の関係性が含まれているようなら、ランダム化された対照実験からのデータを使うのがよいでしょう。
  • あなたは部分的な事実が、ある事柄の存在に関する事実に変換される可能性があります。それにより、存在ベースの意思決定を後から下すことに使用できます。
  • あなたは部分的な事実を用いて、大量の決定事項を自動化することができます。これは、過去に見たことのないものを過去の最も近いものに変換した上で行う、ルックアップテーブルのようなものです。(それが一言でいえばk-NNです)
  • あなたは部分的な事実を用いて、自動化ソリューションに示唆を与えることができます。システムに関する部分的な事実を見ながら、あなたはコードを書くことができるでしょう。これがアナリティクスです。
  • 部分的な事実を用いて、解を完全に計算で求めることができない問題に対する適切な解決策を生成することができます。これによりあなた自身で考え出す必要がなくなります。これが機械学習やAIが指すところです。
  • あなたは部分的な事実を用いて、将来の重要な決定事項にどのようにアプローチするかに関し示唆を得ることができます。これがアナリティクスです。
  • あなたは部分的な事実を用いて、あなたが扱っているシステムを理解し、高度な分析機能を有する自動化処理の開発を加速することができます。例えば、有効な入力情報を生成するために情報を混ぜ合わせる新しい方法(専門用語で言うところの「機械学習エンジニアリング」)やAIプロジェクトにおける新しいアルゴリズムの案出に示唆を与えます。
  • あなたは部分的な事実を用いて、ぼやっとした決定事項に対するずさんな形での意思決定を下すことができます。あなたが知っていることはあなたが本当に知りたいこととは一段とかけ離れているので、意思決定の質が一段と低下することに注意してください。

これらすべての用途に対し、以前はサイロ化されていたさまざまな分野の知恵を統合し、意思決定をより効果的に取り組む方法があります。それが決定インテリジェンス(decision intelligence)です。それは意思決定に関する多様な観点を一つにまとめ、私たちを強化し、元の研究分野の制約から解放された新しい声を与えてくれます。

もしあなたがさらに興味があれば、Medium.comに私のほとんどの記事があります。私の"starting AI projects"の記事がおそらく最もおおざっぱなものでしょう。なのでそこから飛び込んでみることをおすすめします。